「やり抜く力は『完全習得学習』で身につけられる」Google・ビルゲイツも賛同する 世界的e-learning事業創業者が語る言葉とは

教育学

ハーバード・ビジネススクール、マサチューセッツ工科大(MIT)を卒業し、月間600万人以上の教え子を抱えるe-learning事業を立ち上げたサルマン・カーン氏。

「誰にでも無料で、どこにいても、世界水準の教育が受けられる」との理念で、5000本以上の教育ビデオを公開しています(ほとんどが彼が一人で撮った動画です)

小学生レベルの算数から、大学レベルの経済学や統計学、さらにはプログラミングまで様々な動画をそろえています。筆者もこのサイトで統計学とプログラミングの基礎を学びました。https://www.khanacademy.org/

今回はそんな彼のTed トークスです。「テストではなく、完全習得学習で教えよう!」
Let’s teach for mastery — not test scores
参考)完全習得学習(mastery learning)

全てのつまづきは、知識の穴にある

 

彼はヘッジファンドのアナリストとして活躍する傍ら、いとこの子どもたちにYoutubeで教育動画を挙げるところから、Khan Academyは始まりました。そしてすべてのつまづきは、取り残された知識の穴に問題があることに気づくのです。

 

これは昔、従兄弟たちに教えていて気付いたことですが、子供達の多くが数学でつまづくようになるのは、学習過程で知識の穴が蓄積されているためなんです。

 

代数を学び始めたとき、それ以前の知識に怪しいところがあって、そのせいで自分には数学の才能がないんだと思い込みます。あるいは解析を学び始めたとき、その基礎になる代数に怪しいところがあってつまづきます。

 

数学のビデオをYouTubeにアップするようになって、それをまた目にしました。 まず気付いたのは、見ているのが従兄弟達じゃないということでしたけど — (笑) 当初のコメントは単に 「ありがとう」というものでしたが これは大したことでした。

皆さんどれくらいYouTubeを 見ているか知りませんが 「ありがとう」なんてコメントはあまりお目にかからないはずです (笑) もっとトゲがあるのが普通です。

コメント内容はその後濃くなっていき、成長につれ数学が嫌いになったという生徒が相次いで現れました。先に進むにつれ難しくなっていき、代数を学ぶ頃にはついていけなくなるくらい知識の穴が大きくなっています。それで自分は数学に向いていないと思うのです

 

知識の穴がなければ、やってみようと思えるはずだ

しかし、もしこの知識の穴をなくし、つまづきがなければ、生徒も学んでみようと思えるのです。

 

しかし少し年を経て主体的に勉強してみようという気になってカーン・アカデミーのようなものを見つけ、知識の穴を埋めて概念を習得すると、別に才能の問題ではなく、数学だってやればできるというマインドセットが強化されます

これが世の中で様々なことを身に付ける方法なんです。武道を身に付けるのも 同じです。まず白帯の技が できるようになるまで 練習します それができて初めて 黄帯の技へと進みます。楽器演奏を学ぶのも同じです。 基本的な曲を何度も繰り返し練習し、それがマスターできて初めてもっと難しい曲へと 進みます 。

 

しかし既存の教育は、知識の穴を無視して進んでいく

既存の教育は、たとえ知識の穴があったとしても高度な内容に進んでいきます。そして知識の穴のせいで、壁にぶち当たり、「私は才能がない」と思い込むのです。

 

しかしこれは従来的な私たちの多くが受けてきた学校教育のやり方ではありません。従来的な学校教育では通常年齢ごとに生徒をひとまとめにし、中学くらいになると年齢と成績でまとめて 全員同じペースで教えます 。

典型的にはたとえば中学の代数基礎で、指数を習うという場合、まず先生が授業で指数を説明し、家で宿題をやり、翌朝 宿題の答え合わせをし、それから授業 宿題 授業 宿題と 繰り返して2、3週間後にテストがあります 。

 

テストでは、私が75%で、彼は90%、彼女は95% という具合に知識の穴が 明らかになります。私は25%理解しておらずAを取った生徒でも5%理解していないところがあります。

 

しかし知識に穴があると分かっても授業はそのまま次の項目へと進みます。より高度な内容でそれが穴の上に積み上げられます。対数だったり、負の指数だったりそれが続いていきます。これがどんなに変なことかお分かりになるでしょう。

基礎的なことの 25%が分からなかったのにもっと高度な内容に進ませられるんです。それが何ヶ月、何年と続いていき 代数か三角関数か、どこかの時点で壁にぶつかります。

それは代数が本質的に難しいからでも、生徒の頭が悪いからでもなく、30%理解していないところのある指数が方程式の中に出てくるためで、そうやって 取り残されていくんです。

 

本当の問題は、先生の問題ではない。学習プロセスそのものである

だから知識の穴をほったらかして、そのまま進んでいく学校教育プロセスそのものに問題があります。テストをして欠陥を見つけても、そのままなのです。

 

これがどれほど馬鹿げているか 分かるように 別な領域になぞらえて考えてみましょう。
たとえば家の建築のような (笑) 建築作業員を集めて言います 「2週間で基礎を 作るようにとのことだ できるだけのことを やってみよう」 (笑)

 

 

それでできることをやります。雨が降るかもしれないし、必要な資材が 届かないかもしれません。2週間後に工事監督がやってきて見て回ります。「あそこのコンクリートが 乾いてないし この部分は 基準に合っていないな・・・ 80%の出来だ」 (笑) 「よし “C” だ じゃあ1階部分に取りかかろうか」 (笑)

同じようにして2週間でやれるだけやることになり工事監督がチェックし 「75%の出来」 「D+」となります。さらに2階、3階と進み、3階に取り組んでいる最中に建物全体が突然崩れてしまいます。

 

これに対して学校教育における典型的な反応をするなら、業者が悪かったんだとかもっと頻繁に詳しく検査をしなきゃいけないという話になります

しかし本当に問題があるのは、プロセスそのものなんです。やるのにかける時間を人為的に制限することで、結果に 出来・不出来を出しています。そして わざわざ検査の手間をかけて、欠陥を見つけたのに そのまま積み上げ続けています。

完全習得学習(mastery learning)で穴を塞ぐ

知識の穴をほったらかしにしない学習法があります。それは完全に習得したら、次に進めるという学習法、完全習得学習(mastery learning)です。

「完全習得学習」ではこれと正反対のやり方をします。
従来式のように、学ぶ時期や期間を 人為的に固定して、当然の結果として 優・良・可・不可とバラツキを出すのとは逆に、学ぶ時期や期間は生徒ごとに変えて、実際に習得するという部分を固定するのです 。

 

ここで重要なのは 指数などの概念を生徒が良く学べるというだけでなく、適切なマインドセットを育めるということです。何かで20%間違えた からといって 別にDNAに “C” と 刻印されているわけではなく ただ取り組み続ければいいんだ

 

完全習得学習は、既に実績があり、かつ現代なら十分できる

完全習得学習をやって効果があるか。それはもう100年前に検証され、大きな実績を上げました。当時はコストがかかりすぎていましたが、現代のITを活用すれば、十分実現性があるとサルマン・カーン氏は主張します。

 

…(中略)懐疑的な人は言うかもしれません 「そりゃ考えとしての完全習得学習やそれによるマインドセット、生徒の主体性は、素晴らしいものだし、言っていることは分かるが現実的じゃない。

これは別に新しい考えというわけではありません。100年前にイリノイ州ウィネトカで行われた実験で、完全習得学習によって素晴らしい成果が出ましたが 、運用が大変で規模拡大は無理ということでした。教師は生徒それぞれに異なる課題を出し、個別に評価しなければなりません。

しかし今日では非現実的なことではありません。そのための道具があります
生徒のペースに合わせて 説明を与える必要がある? それならオンデマンド・ ビデオがあります。練習問題が必要? フィードバックが必要? 生徒に合わせた適応型の練習問題があります

完全習得学習が、やり抜く力を鍛える

そして知識の抜け穴がなくなり、完全習得学習ができるようになれば、努力すればできるというマインドセットが付き、やり抜く力がつくようになるのです。

そして完全習得学習を行うとき、沢山の素晴らしいことが起こります。
生徒が概念をすっかり習得できるだけでなく、成長のマインドセット、やり抜く力、粘り強さを身に付け、学習に対して 主体的になります 。

また教室でも 様々な素晴らしいことが、起き始めます。授業を聞くだけでなく 教室の中に交流が生まれます。内容をより深く習得できるようになります。シミュレーションや ソクラテス的対話ができます。

 

完全習得学習ができれば、世界はもっと賢くなる

過去には識字率が10%の以下の時代もありましたが、教育の進化で現在ではほとんどの人が文字を読めるようになっています。今、微積がわかる人は10%ぐらいでしょう。でも、しっかりと基礎を固め、完全習得学習を広げていけば、どんな人でも微積はわかるようになるとサルマン・カーン氏は主張します。

…(中略)「本当に微積分を マスターできる人は どれくらいの割合だろうか? あるいは有機化学を 理解できる人は? あるいはガン研究に貢献 できる人は?」 多くの人は言うでしょう 「優れた教育システムがあれば 20〜30%の人が 出来るようになるかもしれない」

 

しかし そのような予想が単に習得に基づかない教育における経験、みんな同じペースで進ませられ知識の穴が蓄積されていく教室で自身が体験したことや周りの人を観察した結果から来ているのだとしたら?

 

Aを取って 95%できたとしても 落とした5%は何だったのか? 穴は蓄積されていき、高度な内容に進んだとき突然壁にぶつかって「ガン研究なんて自分には無理だ」とか 「物理学は向いてない」とか 「数学は向いてない」と思うんです

 

それが実際に起きていることでは と思いますが もし完全習得の枠組みでやっていけ、学習に対して真に主体的になれ、間違いを歓迎し、できなかったことを学びの機会ととらえるなら、微積分をマスターしたり、有機化学を理解したりできる人の割合は100%に近いものになるでしょう。

…(中略)これは別に夢物語だとは 思いません。完全習得の考え方と、学習に対して主体的になることによって、人々の潜在能力が 発揮されるようになれば、そこへ到ることが できると思います。世界市民としてそのことを考えるとワクワクします。そうやって可能になる世界の公平さや文明が進歩する速さを えてみてください。私はそのことについて楽観的です。生きているのが素晴らしい時代に なると思います。どうもありがとう (拍手)

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