「遺伝子は教育で変えられる」モシェ・シーフ

生物学

モシェ・シーフ「幼少期の経験で、DNAは再構築される」

自分の能力について、限界を感じたことはありませんか?「どんなに頑張ってもできるようにならない。自分には優秀な遺伝子はないから」と。

実はこれを覆す研究があります。環境が遺伝子を変えるというのです。

今回はマギル大学の遺伝学者モシェ・シーフ教授のTEDトークス「DNAへ人生初期の経験が刻まれる」について解説したいと思います。

簡単に要約すると

・遺伝子には2種類あります。1つは古い情報の遺伝子、もう一つは環境によって変えられるエピジェネティック遺伝子です
・エピジェネティック遺伝子は、幼少期の教育環境によって、大きく変えることができます
・だから親の遺伝子がいかによくなくても、環境を整えることで子どもの可能性は広げられます

という内容です。


本当に遺伝によってすべてが決まってしまうのだろうか?

彼の興味は、マギル大学の同僚 マイケル・ミーニーと飲んだ時に聞いた一言から始まりました。マイケルは母親ラットの子どもの舐め方がその後の子どもの発達に影響を与えているというのです。

「彼は 人間も育児の仕方はそれぞれだけど、母親ラットの子供の舐め方も様々だと説明し始めました。非常に熱心に育児に励む母親がいる一方、ほとんど無関心な母親もおり、大半はその中間です。でももっと面白いのは これらの赤ちゃんラットが成長したときのこと 。母ラットが死んだずっと後で、人間なら何年も後に相当する頃に 彼らは全く違った性格になっています。より熱心に舐められ、身繕いされた個体は そのために リラックスしており、彼らの性行動や 生活の仕方が 母親にそれほど構われなかった 個体とは違っていました。

そこでモシェ・シーフ氏は考えました。「もし、子どもたちの遺伝子が、母親からの遺伝だけではなく、子育ての仕方で変わっているのだとしたら」と。

 「遺伝子学者たちは 母親が「悪い遺伝子」を 持っていれば 子供はストレス耐性がない子供になり、それが後の世代に受け継がれる。つまり遺伝子により全てが決まる、と説明するかも知れません しかし、それ以外に何か起きている可能性は?

 

親の教育が、子どもの遺伝子を再構築していた

さきほどの実験だと一つ疑問点が残ります。

遺伝子の良い母親は、子どものことをよく舐めるから、子どもの発達がよいのかもしれないのか
もともと遺伝子の良い母親の遺伝子が受け継がれているから、子どもの発達がよいのか。

そこで、彼は後天的な環境が遺伝子にどのような影響を与えるか調べるため、交換哺育実験をしました。遺伝子の良い母親から生まれた子供と、遺伝子の悪い母親から生まれた子供たちの子どもを、交換するのです。そうすることによって、直接母親の教育が遺伝子にどう影響を与えているか測定したのです。

 

その結果、驚くべきことが判明しました。母親の教育によって、子どもの遺伝子が再構築されていたのです。

「ラットを使い この疑問の答えを探し出すことができます。それで交換哺育の実験をしました。子ネズミたちを2種類の養母へとあてがいます。実の母親ではありませんが、哺育をさせます。よく舐める母親と、あまり舐めない母親です。あまり舐めない母親の子供には よく舐める母親を充てがいました。なんと結果は、母親からの遺伝子は問題ではありませんでした。ラットの特性を決定していたのは、産みの母親では無く、子ネズミたちを世話した母親でした。どういうことでしょうか?」

 

サルで実験した結果も同様、子育てによって子どもの遺伝子は組み替えられていた

では人間はどうなんでしょうか。実験してみたいところですが、さすがに生まれたばかりの子どもを親から引き離す実験を人間で行うのは、倫理的にアウトです。そこで今度は人間に近いサルで実験してみます。

その結果、サルの場合でも母親の存在がDNAレベルで影響を与えていることが判明しました

人間に近いサルを見てみました。私の同僚スティーブン・スオミは2種類の方法でサルを育てています。サルを無作為に母親から引き離し、他のメスに育てさせました。代理母というわけです。これらのサルは母親ではなく乳母に育てられ、他のサルは自分の母親たちに育てられます。そして育った時、彼らは全く違っていました。母親と育ったサルは、アルコールに興味を示さず、性的に攻撃的ではありませんでした母親がいなかったサルたちは、攻撃的で常に落ち着きがなくアルコール依存症になりました。我々は誕生直後の彼らのDNAを観察しました 母親が刻印をしているのだろうか? 子供のDNAに母親の印があるだろうか?

 

出生後14日目のサルです。現在はこうして エピジェネティクスを研究します。こうした化学的マークを、メチル化マークと呼びますが、それを単一ヌクレオチドの解像度でDNAにマッピングして、全ゲノムをマッピングすることができます。こうして母がいたサルとそうでないサルを比較できます。これがその情報をチャートにしたものです。よりメチル化された遺伝子は赤い色で、メチル化が比較的少なかった遺伝子は緑色で表されています。多くの遺伝子に変化がおきている様子がわかります。母親がいないことは、あらゆる点で影響を及ぼします。その子が成人したとき人生がどうなるかにあらゆるシグナルを送ります。

 

人間でも、幼少期のストレスは遺伝子レベルで影響を与えることが判明

ここまでわかったら、人間でも調べたいもの。わざと人間で困難な状況にすることはできませんが、実は天災によって実験することができました。

その結果、幼少期に多くのストレスを受けた子どもは、ストレスが大きくなるほど、自閉症率は高く、代謝疾患の率も高く、自己免疫疾患の発症の割合も高かったことがわかりました。

でも人間についてはどう研究すれば? 人間を実験に利用したり 困難な状況に陥れることはできません しかし神が人間に行う実験があります。天災というものです。カナダの史上最も熾烈な自然災害は、ケベックの1998年の大吹雪です。大吹雪で電力網が停まってしまいました。ケベックの気温は -30℃ から -35℃ 程度まで下がりました。その当時妊娠していた、母親たちがいましたが同僚のスザンヌ・キングがその子供たちの成長を15年にわたり追跡しました。

 

 

ストレスが大きかった場合に何が起きたか以下が客観的なストレス尺度です。(1)電力無しでどれ位過ごしたか? (2)その間をどこで過ごしたか? (3)義母のアパートだったか、郊外の立派なお屋敷か? こうした情報を 社会的ストレススケールに反映した上で、こんな質問をします。子供たちはどうなったか? ストレスが大きくなるほど、子供達の自閉症率は高く、代謝疾患の率も高く、自己免疫疾患の発症の割合も高かったのです。メチル化状態をマッピングすると、緑だった部分がストレスの増大と共に赤くなり、赤い遺伝子がストレスの減少と共に緑色に変化していきます。ゲノムの再配列がストレスに反応して起こっています

 

遺伝子は変えたいと思えば、変えることができる

モシェ・シーフは遺伝子は二つの要素が存在していると説明しています。
1つは古い情報のDNAで、これは何百万年の時をかけて進化したので、固定化されて変えられません。もう1つはエピジェネティック層と呼ばれるDNAで、環境によって大きく変えられるのです。だから環境を変えることで、我々は人生をコントロールできるのではないでしょうか。

今日のお話は、私たちのDNAが2つの要素で構成されているということでした。2層の情報、古い情報の層は何百万年もかかり進化して来ました それは固定化していて、変わるのは難しくもう一方はエピジェネティック層で、柔軟にダイナミックに変化します。それがインタラクティブな物語を展開し、私たちに運命をかなりコントロールさせてくれ、子供達の運命を助け、願わくば人類を長らく苦しめて来た病気や深刻な健康問題を克服させてくれるかもしれません。私たちが遺伝子によって形作られていても、自分の責任で生きる人生になるよう方向付ける自由の余地はあるのです。

 

感想)幼児教育は、遺伝子レベルで人間を進化させられるかもしれない

大学の無償化か保育園義務教育化かが議論されていますが、この結果を見ると、
幼少期に大きな影響を遺伝子レベルで受けるのであれば、幼児教育を徹底するほうが大事なのではないのではないでしょうか。

 

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